次に視界に入ったのは朱でも紫でも蒼でもなく白だった。 目線を自分の意思で動かすことができた、まるで映画館で見ていた俺が消えて今度は映画俳優にでもなった気分だ。 白い壁に白い毛布、白いカーテンには昼間辺りのせいか日差しも白く感じられる。 僅かにでも体を動かすと激痛が走る。何とか痛みが比較的に少ない左手で白い毛布を除けると石で形作ったようなギブスが右腕とあの蹴られた脇腹に頭には包帯が巻き付けられているのが分かった。 そしてこの白い部屋に白い女と紺色の男が入って来て簡単な安否を気遣う言葉を投げ掛けると制服の内ポケットからスーツ男の免許書のような写真を取り出し見せ付ける。 「自白はしているんだが本人にも確認して欲しい」 紺色の男は俺の肯定の意思を見て白い女が出て行ったのを確認すると途端に堅苦しい顔から友達と会っているかのように事件の話をどんどん話始めた、それから聞くところによるとこんな姿になっているが俺の咄嗟の行動は正しかったらしい。 一つはスーツ男に立ち向かわずにいたこと バットを持った男に素手の子供が勝てる訳がない、無謀な戦いでしかなかった。 二つはあの体制が良かった 格好はどうあれ背中だけ出すことによって大事な神経の固まりの頭や傷付いたら危険な内蔵が多いお腹を守りきれるあの体制は結果的に好都合になった。 これは俺とは全く関係ないが三つは警察官が近くにいたこと一時間ほど殴られていたかと思っていたが実際は四、五分ほどで額を割りのけ反るほどの蹴りを一発脇腹にひびが入る蹴りを二発右腕が骨折するまで踏み付けを二回バットで背中を強打四回、計九発を食らうだけですんだと俺を訳の分からないまま褒めた。 自分の傷やらあのサラリーマンの男なんてどうでも良かった。一番気になっている事は俺の腕の中で震えていた 「柊は?」 未だに週刊誌の情報通かのように喋りまくる警官の隙を突き敬語が抜けた無礼な質問を投げ掛ける。 口が休まない警官は無口だと思っていたガキに話し掛けられたことに一瞬キョトンとした顔だったがその内容も言いたいことだったらしく喜色満面で話題を切り替える。 「柊?あぁ一緒に保護された女の子か、あの子なら全然平気だよ、何てたってこんな勇敢なナイト様が護ったんだから傷なんか一つも負ってはいないよ」 それからも口が閉じることなく次々に話を展開するが富美が無事だとわかるとそんなのは遠くに聞こえる。 柊は無事だった。 あれほど体から電気信号が送られるたびに痛みも同時に走っていた体が麻痺したように何も感じなくなり代わり中からじんわり暖かい物が染み出してくる。 これが安心という物なんだろうか 「良かった」 思わず口から零してしまう、その呟きは目の前のスピーカーによって掻き消されたが自分の体以上に富美を心配している自分がいることに驚く 「でその女の子、えっと富美ちゃん?は今は多分検査を受けているよ」 今度は逆に暖かい物がどんどん熱を失い冷たい物となって全身に侵食しだしてくる。 「あの子は外傷はなかったけど一応の検査・・・」 名前すらしらない警察官からそこまで言いかけられた時に来客があった、それこそ今一番話題に上がっていた富美だった。 確かにこの警察官が言うとおり検査をしていたのか富美は病院側から配給された清潔感のみを重視した白っぽい飾り気のない患者用の服で俺のような包帯もギブスもしてはいなかったがそれなのに富美は俺以上に辛そうにしている。 「それじゃ確認も取れたことだしこれで失礼するよ」 酷く変な勘ぐりをした気に障る笑みを浮かべたその警察官は手帳にささっと何かを記入して病室から出て行った。 「黒沢くん・・・」 恐る恐る入ってきた富美は視線を合わしたくないのに合わせないといけないかのように目線を俺から痛々しい脇腹のギブスそして布団へと代わる代わる変えようやくそう言った後が続かない こうなったのを自分のせいだと思っているんだろう 急に富美を中心に周りの背景が湾曲し始め加えて音もノイズ混じりになり声が聞きづらいものになっていく。 感覚として覚醒が始まりこの夢が終わりに近づいて来たのが分かる。 そうだ、この後今にも俺は泣き出しそうな富美に約束した。 馬鹿らしい卑怯なヒーローの約束を |