くじ引き


 聞くとところによると学校は学び屋で生徒は学を求めるのだと昔の人が言ったらしい
 馬鹿な!!昔の辞書ではそうかも知れないが今の辞書ではこうだ、学校とはスターリングラードよりも更に過激な戦場であり生徒とは日々をどう生き残るか模索する兵士だ!!
 特に男性兵士は酷い、毎日が生死を掛けた戦いを強いられる。油断なんてとんでもない!その時は死を意味する。
我らが立ち向かう敵は強大でありかつ容赦ない外道な国であるからやることは血も涙もない
 普段日常的に発し続ける睡眠を促す催眠術に世界で禁止されているはずのチョーク粉という毒ガスを分布し教壇という要塞の上からは敵を撃とうと探る鋭い目線、数えるだけで霧がない強襲に耐えなければならない、だが一番怖いのは敵の攻撃よりもむしろ鉄の結束で結ばれた筈の我らの中にスパイが紛れ込んでいることである。
 これは女性スパイに多いことだが手紙で伝染病を撒き散らしてたびたび我らを陥れたりこの戦場で生き延びるためのノート型ライフルがいつの間にか細工されていたりなどスパイのやることは幅広く悪徳だ。
 そして残念ながら僕もそのスパイの一員なのだ。

(佐藤め、寝ているな)

 放課後の訓練で日に焼けた肌と体力が自慢の佐藤二等兵だが敵の催眠術には滅法弱く隙をつくることが多い
 指で拳銃を作り伸縮自在なゴム製の弾を誰にも気付かれないようにゆっくりと込める。

(やれ!)

 むっ、細心の注意を払ったつもりだったがこの伊澤スパイの目をくぐり抜けることは出来なかったか、が所詮はスパイ佐藤二等兵を助けるようなことはしない

(任しとけ)

 軍人が実際に使うジェスチャーなんか遠く及ばない高度なアイコンタクトだけで応答し佐藤二等兵に狙いを定める。
 ここからが一番神経を使う、三等兵が狙いがちな紺色の防弾チョッキは駄目だ。
 確かに的はでかくて当てやすいがその分ダメージが激減してしまうから狙撃兵が狙うは顔しかも耳の辺り!!
 しかし味方な筈の教師の目も気にしなくてはならない、教師とは誰がスパイか分からずに誤射するからたまったものではない

「イテェッ!!」

 僕らはただこうやって寝ている生徒を起こしているだけなのに謙遜としてた教室内に悲鳴が響き渡りそこにすかさず

「佐藤!何してんだ!!」

教師の追撃が始まる
これぞコンビネーション!!





 このように毎日がある意味の生死を掛けたドキドキとハラハラとワクワクな日々を送っているのだがそれを一ヶ月間楽しいものとなるか辛いものとなるかはこの一瞬で決まる!

「ではこれから席替えを始めます、前の席の人から取っていってくださいあと天宮だけは最後に取れ」

 くそっ佐藤二等兵め、僕を最後にさせるなんて卑怯者だ!
 順々に割り箸で作ったくじを引いていき引き終わった奴から一人ずつ黒板に書き写していくので取り変えっこなんて出来ない、あの隣に誰が来るかの分からない感覚がスリリングで楽しいのに





 んっ?待て待て、これはこれでなかなか
 佐藤二等兵も既に気付いているだろう黒板を再度確認してから悔しそうな顔でやってくきた。
 今日は休みが二人いるので結果的にくじが残り三つになるのだが
一つ目は要塞が目の前にあるこの戦場の最前線にある席
 要塞からの長期的毒ガス分布にノートへの偵察死亡率は他とは比較にならないほど上がってしまうまさに激戦区域二つ目は列は一番後ろでしかも出入り口扉は目の前、一つ目とは雲泥の差を身を持って現している、ここなら退却戦は心強いしその分だけ放課後の訓練を参加しやすくなるし教師からの目もここまでは届きにくい、この戦場で滅多にない安全地帯に位置する。
 だが僕が狙っているのはこの三つ目だ、右端から三列目でしかも前からも四つ目と別段良くはない寧ろ悪い方に分類されるはずのこの席に何故なりたいかと言うと隣には佐藤衛生兵がいるからだ。
 奇しくも佐藤二等兵と同じ名前ではあるが全く縁もゆかりもないと言うより何かの縁があれば皆から袋だたきだ。
 日々戦場での傷をたった一度微笑むだけで癒すその治癒力は衛生兵というよりはむしろ女神と言っても過言じゃない
 つまり三つのカードの内二つはセーフカードな訳だ。

「どうぞ、天宮」

 こ、こいつ心理戦に出たな
 佐藤二等兵の手の中には運命の三本の割り箸あるのだがその真ん中の一本だけが僅かに飛び出ている。
 つまりは一か百か
 佐藤二等兵だって僕が女神の隣に行きたいことを知っての勝負だ。
 だから可能性としてこの飛び出ているのは最悪の激戦区か最高の女神の祝福しかない
 だが甘い!僕だって男だ!!売られた喧嘩は安値で買ってくれる!

「はい、天宮は最前列になりました」

 佐藤二等兵め!
 僕が勝負に出る性分なのを知っていてわざとやったな!!
 仕方ない隣さえ良ければ後は何とか・・・

「よろしく、天宮」

 なっ
 僕の隣には佐藤二等兵が笑顔で待っていた。

「さっきの授業の罰として一番前になってなぁこれから一ヶ月よろしくな」

握られた握手はとても痛かった


くじ引き