11護るべき人 「だから違うと言ったであろう!!」 「すいません!」 我とシフォンは今使い魔専用の待機所を抜け出し校内にある演習室、使い魔達の魔力や技を鍛えるために作られた部屋で戦っている。 「シフォン!お前は体格が小さいのだから相手の正面に立つな!!」 「はい!」 この光景は既に一週間に及んでいる、その一週間前ルナが帰るために身支度を整えているのを待っていた我の前に傷だらけで泣き腫らしたシフォンが願い出たのだ。 その傷を見た限り火傷の痕が多く、何かしらの炎系の魔法を受けた後応急処置もせぬまま来たのは明白だった。 「どうか訳を聞かずに一週間だけ稽古を付けて私を強くしてください!」 我が治療が先だと言っても聞かずに頭を下げ続けたので仕方なしにいくつかの条件付きでその場で了承した。 一つ、稽古中であろうとも我に私用が出来たならそちらの方を優先する。 二つ、変な癖が付かぬためと戦術の情報が漏れぬように稽古以外の練習を避ける事。 三つ、弱音を吐いたり、指示に従わなかった時点で稽古を打ち切る。 実際シフォンはこれらをちゃんと守っているので学校にいる間はルナから離れて戦い方を教えている。といってもニンフの戦い方は知らないので大戦中に我が戦いずらいと思った戦法を教えているだけだが、幸い運よくというか平和ボケになっているためかこの演習室は全く使われていないので気兼ねなく無断で使わせてもらっている。 「ではもう一度行くぞ!」 「はい!」 我とシフォンはお互い部屋の片隅近くまで距離を空ける。 「おさらいするぞ、敵は炎の精霊、主に放出系を得意として姿は昆虫型、あまり移動せずに魔法に頼る」 「はい!」 我の姿をシフォンに言われた形に変化させていく、初めはシフォンも驚いていたが今は見慣れているのと緊張で言葉がない。 「いくぞ」 我の合図と共にシフォンは羽根を震わせ高速で浮き上がり、確かに我が教しえた通り高速で背後に廻りこもうとするのだが 「炎の霊よ、火の雨で奴を貫け!!フレイヤ!!」 我が吐き出した無数の針のような細く鋭い魔法は一分の隙間もなくシフォンへと降り注ぐ 「風よ、私を守って!!シルハ!」 シフォンはそれに対し体から受け流すような風の流れを作り、無数の火の針達は風の軌道に乗り使用者を避けるよう通り過ぎた。 「うまくいった」 「甘い」 その言葉は身を持って実感することになった、かわしきったと思った針の嵐の先には前足を振り上げたロスが目の前に待ち構えていた。そして強くではないがさりとて痛くはないほど強さで地面に叩き付けられた、フレイヤに気をとられて術者の方に気が回らなかった。 「シフォン!遅いぞ!!一度攻撃を防いだぐらいで気を抜くな!」 「すいません!!」 「いいか、相手は炎の精霊だと言うから自分の属性である炎系は休みなく打てるだろう、一つの魔法を防いだとしてもまた次が来るのを忘れるな、シフォンはその体格だから一度でも当たれば重傷となる。ならば風属性であるお前は魔法でとことん防げ、そこに勝機がある」 「はい!」 「もうここまでにしよう、今日で一週間になるが我はどうすればいい?」 「あ、あの出来れば立ち会っていただけないでしょうか?」 やはりシフォンは明日にその相手と決闘する気のようだな 「場所は?何処でやる」 「時間は放課後、場所はここです」 シフォンは不安げに辺りを見渡す。明日の事を思っているのだろう 「安心しろ、お前はもう強くなっている。」 「へぇ〜シフォンの奴、噂の四天王を連れて来たか」 「なんならあんたとでもいいよ、俺らなら勝てる自信があるから」 来るべきでなかったかもしれん 演習室には魔力もさほど感じられぬのに先程から我の事をにたにたと笑いながら観察するような主人にその足元にはあの大戦も知らないでかい唯の赤い黄金虫もどき、シフォンは遅れているようだし、いらつくから我がやってしまおうか 「すいません、遅れました!」 「遅い!何してた!!」 「主人から質問の嵐だったんです」 「まぁじゃ主役が来た事だし始めようか、ルールは俺のガンダとそっちのシフォンの一騎打ちで気絶かギブアップで終わり、それと周りからの指示はなしでいいか?」 「かまわん、だが条件がある、こちらが勝てばシフォンとイーシャに謝まれそしてオヌシは自主退学せよ」 勇者学校はいつ入学してもいいし、いつ退学しても構わない自由制になっている。しかしそれは様々な所でマイナスの印象を受けるのでよほどの事がない限りする者はいない 「うるせぇなぁ、じゃそっちが負けたなら、俺達は負け犬ですと書かれたカードを持って校内を一週してもらうからな」 「わかった」 我が条件を飲ませ戻ると、安全のために防御魔法が掛けられているローブを着込んだシフォンは俯いていた。 「コーチ、知ってたんですか?私が戦う理由を」 「ルナが話した、授業で酷く馬鹿にされたそうだな」 「はい」 「主人の侮辱は使い魔が返すのは当然だ、心配するな我は出来る限り事を教えたのだ、負けるはずがなかろう」 「はい!」 「では始め!!」 始まりの合図と共に特訓の時と同様、羽根を震わせシフォンは飛び上がり赤い黄金虫もどきのガンダは体を縮こませて魔力を溜めだした。 「前と同じようにくらえ!ソドム!!」 ガンダが放つ特訓の時よりも数倍小さい火球は高速で飛ぶシフォンには魔法を使うまでもなくひるがえし軽く避けられる。 「さらに、フレイヤ!!」 ガンダはソドムが避けられる前から量を重視して狙いが定まっていないフレイヤを放っている。やはり相手は点ではなく面の攻撃を繰り出しているか、シフォンのように小さく早い者に当てるにはそれしかないだろう、ここを耐え切れるかが勝負の分かれ目になる。 「私を守って!!シルハ」 特訓の時のように方向を私からずらす。 私が一週間で教えてもらったのは二つだけ、徹底的に避ける方法と移動魔法のレーベルのみ 「シーケル!!」 私の風の固まりがガンダの顔に当たるが頭を振るだけであまりダメージになっていないようだ。 「ちょこまかと!炎よ、弾け飛び奴を叩き落とせ!ガルバ!!」 ガンダからまた火球が出来上がるが今度のは薄い膜に覆われた中に炎が水でできているように液状になって揺れている。 ガルバは相手の前で水風船のように破裂、中に入った高温の液状の魔法が不規則に襲うために避けることが難しい。 「風よ、私に邪魔するのを包みこめ!!ワイル」 確かにガルバはシフォンの前で割れたよう見えたが中身が降り注ぐことなく空中で停まっている。 「うまい、周りから風圧をかけて中身が飛び散るのを止めたか」 「ガンダ!!何を遊んでいる?早く終わらせろよ!」 なるほど、確かに魔力が弱い者では面の攻撃に弱点が出来る。 「炎よ、壁となり奴を叩き落とせ!!フレイベール」 今度ガンダが吐き出した炎はスライムのように徐々に縦横に広がり、演習室いっぱいに薄い膜状となったままシフォンを飲み込むために押し迫る。 「風よ、剣となり私を助けて、フィル!!」 しかし私は生み出した風の剣によって炎の壁を突き破った。 特訓を始める前に聞かれた事がある。 「いいか、お前は小さく素早いから相手は必ず面での攻撃するはずだ、ならばこちらはどうする?」 それは前回にやられた、後ろに回り込もうとしたのだが避ける場所もないほどの魔法を使われて負けた。 「わかりません」 「相手が面ならこっちは点で対処しろ、面の攻撃は所詮面だ、厚みがない、威力だけなら点の方が上回るから面に穴を空けてやれ」 確かに、それなら避けるだけなら出来るかもしれないけれど 「しかしそれでも逃げているだけなら倒せません」 「そう、面で無理ならばその内相手は立体の攻撃をしてくはずだ、そこを叩く、いいか?面と立体はまったく別物だ。大切な事を失い、余計な物が生まれる」 答は単純でそれゆえに陥りやすい事 「お前!やる気はあるのか!?避けるか効かない攻撃だけ!!もういい、これで終わりにしてやるよ!!炎よ、辺り一面を焼き払え!フレイブレス」 ガンダが吐き出した炎の息は徐々に大きくなる渦を描きながらのようにシフォンに向かいながら周りを焼き尽くす、演習所の辺り一面は何も分からなくなるほど炎一色になる。 「どうだ!!これなら避けるどころか塵すら残らないだろう!!」 しばらく赤色しかなかったが時が経って、熱が冷め辺りが見える頃になってもシフォンの姿は見えなかった。それこそ塵すらも 「慣れない魔法で発動までに時間が掛かりましたが私の勝ちです」 ガンダの首元にはシフォンのフィルで作った剣が突き付けられていた。 「なぜ!?お前が生きている?何処に隠れていた!」 私はさらに深く剣を突き付けたながら 「私は教えて貰いました、立体の攻撃のほとんどが大技になるので大切な事を失い、余計な物が生まれると」 「何!?」 「失うのは視界、立体のせいで厚みが出来るので壁の向こうを知ることが出来ない、そして余計な物とは自信、威力の高い攻撃に生まれる感情であり、それが慎重や疑心をなくしたためにレーベルでそばに転送するという可能性を潰しました。まだやると言うなら私は容赦しません」 「・・負けだ」 どんな次の攻撃よりこちらの方が早い 「ふざけるな!ガンダ!お前何負けてるんだよ!!こんな勝負なんか知るか!!」 負けを認めた使い魔を置いて主人の方はそのまま帰ろうとするので次は我が立ち塞がる。 「どけよ!!死にたいのか!?」 「わかったルールを変えよう、次は我とお前でやり合う、お前が勝てばこの話はなかった事にしてやる、だが我が勝てば、我の好きようにさせてもらう」 「誰がやるか!」 「怖いのか?我に勝てば有名になるぞ、皆が恐れるケロベロスに勝った男として」 「はっ!!それはおもしれなぇ、だが使えないガンダと一緒にするなよ」 「大丈夫ですか?」 戻ってきた相手が準備する間にシフォンが競技用の防護ローブを持ってきた。 「安心しろ、まだ罪が残っているのだ、死ぬわけにはいかない、あぁローブはいらぬ、お前はゆっくり休んでいろ」 「行くぞ!!」 「お前は何なんだ!?なんで俺の魔法が一つも効かねぇ!!」 また相手が魔法を放つが口を開けただけのロスに当たった瞬間に魔法を食ってしまったかのように消え失せ、僅かなダメージにもなっていない 「それだけか?ならば今度はこちらからだ、安心しろ、我の目的はもう謝罪なんかじゃない、望むのはお前の死だ!!」 我が一歩だけ歩み寄ると 「やめろ!来るな!!俺が悪かった!!」 奴は同じように我に恐怖している使い魔を抱え演習室を走り逃げていった。 「悪かったなシフォンの相手なのに我が手を出してしまって・・・それともお前もさっき奴のように我が恐いか?」 「いいえ!!私は何度も迷惑かけましたそれなのに文句も言わずに付き合ってくださった、それなのに私が恐がるなんてできません。」 「そうか」 「早く帰りましょう!!主人達が心配しているでしょうし」 「そうだなイーシャに報告せねばな、シフォンが仇を取ったと」 |