13酔いし者達の一夜



「ほら、見た通り何処も壊れてりゃしないだろ?あんたでもう6人目だ、そんな与太話より俺の若い頃の武勇伝を聞かしてやろか?」

「・・・・・」

「何っ、そんな話誰から?」

「・・・・・」

「クソッ、ホイスルの奴また酔った勢いでしゃべったな、後でツケといっしょに口止めしにいかないといけねぇか」

「・・・・・」

「わかった、仕方ない話してやるよ、まぁ俺だって本当は話したかったしな、長年酒場なんかやってたりすると客は酒を浴びるほど飲んで酔っちまうからそりゃ色々ある。聞けば誰でも笑っちまうような事件だってあったし、ちょっとしたはずみでいざこざになって死にかけた事だって頭を振ればいくらでも出てくるさ、でもあの日は特別だ。多分一生忘れねぇだろうし俺自身が忘れたくないって思ってるしな」

「・・・・・!!」

「わかってるって急かすなよ、物事には順序ってもんがあるんだ。外で歩いてみてわかるだろうけど、ここは都会ってわけじゃないしどっちかって言うと田舎の方に入るだろ?だから人の出入りなんて少なくてな、自然とここに来る客は顔なじみになるっていうか常連がちになっちまう、だからよそ者なんかすぐにわかっちまうだがあいつにはそんなのは必要なんてなかった。だって犬だぜ、大の男が横になったぐらい大きな真っ黒な犬が人間のお前さんが入ってくるように入って来たんだ。いくら俺が冒険者学校の卒業生だからって驚いたさ、普通使い魔っていえば主人にピッタリと寄り添い、いついかなる時も守り抜くものって聞いていたのが一匹で酒場だぜ、場違いにもほどがある。でだ、そんなとんでもない珍客に皆が警戒しながら睨みをきかしていたんだがあいつはそんなものなんかしらねぇって様子でその席に飛び乗って、そう、お前さんが今座っている、その席でしつけでするようなあのおすわりをしたんだ」

「・・・・・」

「驚いたか?そんで首はそこのお前さんがよく利用している探し人や賞金首が張られた掲示板の方に向いてて、多分こん時から気付いてたんだろうな、とりあえずどんな姿だとしても客は客だ。どんな酒が欲しいって聞いたらここで一番強い酒が欲しいんだってよ、だからこれをやったのさ」

「・・・・・?」

「なんだ?知らんのか、こいつはちょい凶悪でな、ここら辺の酒がお袋の母乳より好きだなんて生粋の酔っ払い達を集めて一気飲み大会なんてやったんだが結果は惨敗、ひと瓶の半分すら飲み干せなかったのさ、俺はからかいのつもりだったんだがあいつはそれを、瓶先から咥えるとそのまま垂直にまで咥え上げながら呆気なく半分まで飲み干しちまったら今度は角度を水平近くにまで戻して酒の味を確かめるように舐めるように飲んだのよ、酒の飲み方ってのはそほどあるものでもねぇ楽しくやりたいなら弱い酒をハイペースでガンガンやるし哀しい時には強い酒でチビチビやる。だからある種の確信ってやつを持って聞いてみたのさ、なんか辛い事でもあったのかってな、したらあいつは主人の事で飲んでるだってさ、なんか妙にその顔が人間くさくてあれは客の前だったが笑ちまったね」

「・・・・・!」

「はいはい、本題は一瓶を飲み干してすぐ後よ、毎夜の事とだがテーブル席から怒鳴り散らす声が聞こえるなっと思ったらそれがあんたの目当ての奴だったのさ、奴が持つ蛇のようなうねりくねった剣でもっと早くに気付くべきだったよ。ここらでやんちゃをやらかしている小物って訳じゃない王都で大暴れしている本物の盗賊様さ、最近潜伏してるとは聞いていたがわざわざここじゃなくてもいいのに酒瓶は投げるわ、物は壊すわで、止めはしたがったが学校を何年も前に卒業して腕はとっくの昔に錆び付いて一般人と化してる上にまともな武器すら持っていない俺らには指くわえるしか出来なかったんだが、酒の勢い暴れ回る奴がこの珍客を見逃すはずなく酒瓶片手にあいつに巻き付いたのよ、陽気にからかう口調でからんでいたんだが反応一つない相手に怒りが込み上げてきたんだろうな、いきなり酒瓶をブン投げると予告もなしに腰に携えていたその変型の剣で切り付けやがって、次の瞬間には真っ二つになった犬の死骸が出来上がるのかと思いいきやふわりと凶刃を避けながらカウンターに飛び乗ると数秒足らずで組み上げた魔法一発であわれ賞金首は壁にたたき付けられ気絶へとそして犬の英雄は名乗りもせず酒代だけ払ってまた何処へ行ったのやら、だから俺が賞金を受け取る訳にはいかないから今も店の奥にあるよ」

「・・・・・」

「信じられないか?見てた俺ですら信じられないんだから仕方ないが、まぁ証拠にはなんないだろけどお前さんが座っている椅子だけ物が違うだろ?あのせいで使い物にならなくなったんだが今やそこは英雄の席としてちょっとは人気なんだよ。話はこれで終わりだがまさかこのまま帰る訳じゃないだろ?ここは酒場なんだ、とりあえず英雄が飲んだ酒で乾杯といこうじゃないか」

「・・・・」

「話がわかるな、じゃ英雄と王都から執念深く追い掛けたハンターのお前さんに乾杯」