4至福の眠り

 我はケロベロス
 今は契約し名をロスとして人に仕えているがこれでも何百年と生き、ある時には魔物の大群を指揮して人間達に戦争を起こした事もある。
 我らの魔王ラティスに集った魔王軍と人間の国々が手を取って結成された連合軍との戦い、後に聖魔大戦と呼ばれる戦争において我はその強大な力を振るい戦場では無敵を誇っていた。
 我の咆哮は何百もの精霊達に恐怖させ、牙と爪で何千もの人間に絶望を植え付けさせて、敵を打ち砕く嵐のように突き進んだ。
 その四天王の中でも我の外見から恐怖と憎しみを込めて黒き悪魔や地獄の番犬と呼び敵だけでなく魔物達からも恐れられていたものだ。
     そこまで人間達に言わしめした我なのに





       今はゴミ出しをしている。






 それは昨日の寝床争奪争い後、もうなんだか精根使い果たして早速勝ち取った戦利品で寝ようと思った時に

「そうだ、ロス明日ゴミの日だから」

「何故それを我に言う」

 それがさも当たり前かのように言ってのけ、我の質問を無視して目の前にゴミ袋を積み上げた、今思い出したと言う割りにはかなり用意周到である。どうやらルナの視線から察するに始めから押し付けるつもりでタイミングを伺ってたようだ。

「明日ゴミの日だから」

「だから何故それを我に言う!」

 それからまるでお使いを嫌がって駄々をこねる子供を説得するようにまだ積み上げていないゴミ袋を持って一歩一歩踏み締めるように我の周りをゆっくりと廻り始めた。

「決まっているじゃない使い魔は主人を命懸けで守るものよね」

「確かにその通りだがそれとゴミ出しとどう関係するのだ」

 両手にゴミ袋を持って廻り続けながら加えていかにもな嘘泣き始めた。

「私がゴミ出しをしている時に暴漢者に会い、そしてそのまま死んじゃうかも」

「安心しろ、ルナは我以上に強いんだ、お前に勝てる人間などそういない」

「そんなことを言わずに、ロス!お願い!」

「断る!」

「お願い!!」

「断る!!」

「ロス、消えたい?」





 結局はルナには勝てず、ゴミ出しにきているのだがゴミ袋を直接口に加えるのはさすがに抵抗あるので仕方なしに切り札の一つを使っている。
 我の切り札の一つ、それは自分の魔力で変化させることができる。
 自分の所有している物や相手が我に気を許しているなら対象を選ばず全て可能であり、例えるなら我の外見を人に変えることなどもたやすい。

「おはようございます、見掛けない顔ですが最近引っ越してきたのですか?」

 我の姿を人間の青年ぐらいに変化させているためか一つのゴミ袋を両手で持っているオシャレというより清楚で優しそうな女の人に話しかけてられた。
 突然のことで驚いたが、大丈夫だ、我には旅をしていた時に人間を研究するために見つけた近所の人とお付き合いするための方法が書かれた指南書がある。

「あぁ、つい昨日この町に着いたばかりなんだが、ここら辺のゴミ出しのルールや地理なんかを教えてくれぬか?」

「えぇ、いいですよ今日が燃えないゴミの日で火の日が燃えるゴミの日、出し方としては袋がちゃんとネットの中に入るようにしてくだされば後は当番の人がやりますので、他の詳しいことは月の最後に近所の人が集まって話し合いをするのでその時に」

 なるほど、やはり見た目にそぐわぬ優しい人のようだな、我のように何百年と生きると言葉使いや仕草でわかる、ただ時々見せる笑顔がぎこちなく何か無理をしているようにも感じる気もするが
 とりあえず我がやるべき事は本に書いてあったように進めることだ。

「とても助かった、お礼がわりとはいってはなんだがその袋は我が持とう」

「いえそんな、そこまでしてもらうわけにはいきません」

 しかしここで引いてしまうと本にはお互い気まずくなる最悪なパターンだと書いてあったからなんとかせぬとな

「重いものを運ぶのは男の役割であるし、恥ずかしいことだが収集場の場所がわからぬので案内のお願いもかねてやらせてくれ」

「そうですか、ではお言葉に甘えて」

 少し迷ったようだが了承してくれたようだ。

「そういえば名前を言っていなかった、我はロスト・ミスティック。ここの通りを行った所に家が」

「これはご丁寧に、私はマリア、マリア・シャロンです。近くの学校で魔法科の教師をしています。」

 その後マリアと分別の仕方などの雑談をしながらゴミ置き場まで行き、さらに詳しいゴミの出し方などを教わった。
 こうして我は近所付き合いもなんなくこなせた。
 だがロスはわかっていない、旅先で見つけて、参考にしていた本の「近所のお姉さんとの付き合い方100の法則」の付き合いの本当の意味を





 ゴミ出しが終わった後、元の姿に戻りもう一度例の本をソファーに横になりながら読み返していたら

ダン!ダダダン!ッドン!

「おぉルナよ、やっと起きたのか、すでに昼近くだぞ」

 二階からかけ降りてきたルナは時計を見て何かに落胆したかと思ったらいきなり寝そべっていた我をソファーから引きずり落とし仰向けにすると我の胴体を跨ぎながら両手に以前より特大の魔力を溜めて仁王立ちした。

「ロス!!なんで起こさなかったの!今日は何の日かわかってるの!?」

 まさに今にもその魔力を放ってきそうな勢いなので流石に我も恐怖を感じてしまう。

「待て!何の話しだ我は今日がゴミの日だと聞いて出してきただけだぞ」

「じゃ聞くわ、今日は何の日?」

「カレンダーには月の初めの月の日と書いているが」

「今日は月の日、つまりは学校があるってことよ、なのにあんたが起こさなかったから遅刻じゃない!」

「そんな事を我のせいにするなぁぁ!」

 だが一方的に怒鳴り散らすと急に空気が抜けたな顔となり、両手の魔力も拡散させて

「まぁ仕方ない、これから行っても間に合わないだろうからロス、学校に行って私は風邪で休んだって言ってきて」

 なぜだろうまだ昼なのにこのままなにもかも忘れて眠りたくなってきたのは
 それから何度断っても受け入れてもらえず結局最後には脅され、我が学校まで走って行き、ルナがいかに重病であり看病していたために報告が遅れたことを身振り手振りで表現した、当の本人はというと家で本日二度目の睡眠に入り幸せを噛み締めているのに。