5軽薄な仮面 そして次の日 朝日が少しだけ頭を出し上り始めたころ、ソファーに横たわっていた大きな物体が部屋の中で起きだして溜め息を一つついた、前足で毛布を器用に折り畳み何かの呪文を呟き、一瞬光ると黒い固まりが一人の青年に様変わりしそれから屋根のポストから新聞を取り込み貯蔵庫からジャムなんかの食材を取り出しては朝食を作り始め、それらが片付け終わるとまた溜め息と同時に光った後には元の黒い固まりに戻っていた。 その黒い固まりが真っ直ぐ階段を登って行き主の部屋前で立つとこれから何かの重労働するようにさらにもう一度大きな溜め息をついて入る。 「ルナよ、起きる時間になったぞ、頼まれていた朝食や洗濯はすでに終わらせておいたから後はルナを起こすだけだ。」 魔道書やら食いかけの果実が散乱する部屋の隅に鎮座する質の良さそうなベット上にできた掛け布団の山に語りかけた。 「うるさい、後5分」 我の声も寝返り一つで粉砕するのが我の最強の主ルナ・ミスティック 「その言葉は既に本日三度目だ。それにルナが言っていたレッドゾーンに差し掛かっているぞ。」 レッドゾーンとはルナが遅刻するかしないかを決めるギリギリの時間帯であり、 それは遅刻大魔王のルナがこれ以上遅刻しないための大事なゾーンであり、またロスにとってはある意味生死を司る大事なゾーンでもある。 「頼むから起きてくれ、でないと我が殺されてしまう、・・・ルナに」 「うるさい、後5分」 小さく掛け布団の山に聞こえぬよう 「チッ、さっさと起きろ、この生きる破壊神が」 「あら、ロスこんなか弱い乙女を捕まえてなんてことを言うの」 バ、バカな「うるさい、後5分」までは確かにベットの上で団子と化していたのに次の瞬間には背後から我の首を掴み上げている。 「そ、そうか起きたのか、ならすぐに準備していくべきだ。こんなことしている余裕はないぞ」 「それもそうね」 降ろされながら冷や汗が我の頬を伝う、なんとか助かったか 「そうそう、続きは帰ってからね」 「・・・ルナの使い魔やめてもいいか?」 「だめ♪」 そして今勇者学校の前にはやる気満々な少女と既に人生に疲れきった使い魔が立っている。 「うん、なんとか間に合ったわね」 「そうだな、結局、あの後ももたもたしていたために走りじゃ間に合わないから我の背中に乗って家の屋根から屋根と跳び移ったり、その他にもいろいろ人に迷惑をかけてきたがなんとか間に合ったな」 「なんか言った?」 「いや、なんでもない」 そこへルナに気付いた様子の、この学校の生徒らしき少女がやって来て 「先輩、おはようございます、昨日は風邪だと聞いたのですが大丈夫ですか?」 相手を見ると否や瞬間的に邪悪なるルナの発する気が一瞬にして様変わりし 「えぇ、確かあなたは錬金科の子ね、もう大丈夫よ、心配してくれてありがとう」 ゾクリとする。 これはまるで素足の時にスライムを踏んずけたようなべったりとした恐怖、まさかあのルナが昨日の行動から想像つかぬほど優しい声でしかもお嬢様言葉を使ったからだ。 我の本能が告げる、こいつがルナであるわけがない!まだ少ししか付き合ってないがどんな人間かは既にさんざんめっためたに思い知らされている!! 「貴様、誰だ!?我の知っているルナはそのような賢そうな言葉は使わぬ!!いつ入れ替わった!?」 「あら、ロス何を言ってるの?いつもと変わらないじゃない」 そいつは正体を見破られたにも拘わらず平然と笑っていた。 「まだ言うか!焔の霊よ、貴様の力を発揮し業火を吐き出せ!!ソドム!」 我の口から文字通り火の玉を偽者に目掛け吐き出す。我の魔法に気付くとルナに話しかけていた女子はおぼつかないがその周りの魔法科の人達は何故か慣れた足取りで蜘蛛の子を散らすように逃げていく 「一体何を勘違いしてるか知りらないけど時の霊よ、私に時を翔ける翼を授けよ、レーベル!」 火の玉の進行上にいたはずのルナが当たる直前で瞬間的に消えた。 ルナが唱えたレーベルは時魔法の中でも上級魔法であり、数十m以内なら存在を消滅させて移動できるので、主にパーティーを組んでいる時に相手の背後に回り込むのに使うのだが、一つだけ難点があり 「甘い!!この魔法は発動までに時間がかかるを忘れたか!」 我の右前足を軸に急ぎターンを決める。 「後ろに廻ろうとしても無駄だ!次にキサマの現れる時が消える時だ!焔の霊よ、貴様の力を発揮し業火を・・」 「あら、楽しそうね」 我の背後からつまりはさっき我が魔法を放った方向から声がした。 「バカな!!」 「時の霊よ、彼の者に己の罪の重さを示せ!グラビレイ!!」 振り向くと同時のように体に重力の何十倍も掛かり、我は地面に吸い付くように倒れ込こんだ。 「感心ね、主人に言われなくても伏せをするなんて」 「貴様!背後に回ったんじゃないのか!?」 口元に笑みを浮かべた後 「いいえ、私はその場に転送して避けただけよ、ただどっかの駄犬が後ろを向くのも計算してもだけど」 さらにソドムを避けるために発動時間すらも考慮しての行為だろう 「そういえばロス、確か私にそんな賢そうな言葉を使うはずがないと言ってたわよねぇ、あんたのせいで後輩からの綺麗なお姉様イメージがズタズタになったわ」 何故だろうルナの顔は始終楽しそうなのに、周りに赤いオーラが集まりだしている気がする。 「い、いや、我は今の方が素敵だと思うぞ、こ、こんなに素晴らしい女性はルナ以外にいない!」 「言い訳は聞かん!!雷の霊よ、その破壊槌で全てを打ち崩せ!ライトニング!」 「ぐわっ!!」 ルナが放った魔法は我の体の隅々まで電流が流れ、浮き上がるほどのたうちまわり遂には我の意識は途切れていった。 翌日、ケロベロスが負けたことが魔法科は勿論ルナの暴走を知らなかった他の科にも響き渡り皆は過去の四天王よりもルナを恐れるようになった。 |